その姿、偽りなり。
翼side

芽衣からのメールを読めば今、隣の及川さんの家にいるという内容だった。


あーあ、これで芽衣と及川さんも友達か


及川さんの人柄を知っている私は、芽衣が彼に心を開くのは時間の問題だと思った。


家に行けば、よく分からないが芽衣は病気のことを話したようだ


あげくの果てに私を診察したいという。


世の中、物好きな変わった奴がいるもんだな

普通だったら、自分から病院行かない奴なんて放っておくだろ

でも、
久々の聴診で悪化してるってことは自分で理解出来ても、改めて医者に言われると傷つく。


あ~とうとうこの日が来てしまった。

嫌でも病院に行かなきゃいけない日が来るかもしれない

そんなの分かってたさ


自分だってバカじゃないんだから、この病気が放っといて治るなんて、そんな甘い考えはしていない。

ただ、どうしても今だけは病気ということを忘れて

普通の女子高生として生きたかった。


何で今なの?


そんな率直な意見を及川さんや芽衣にぶつけてしまった。


まだ辞めたくない。

諦めたくないよ!私の体、動いてよ!

私にもう少しだけ剣道やらせてよ!!



実はそれからのことは、自分でもよく覚えていない。


だけど最後に必死に私の名前を呼ぶ芽衣と、悲しそうに私を見つめる及川さんの姿が脳裏に焼き付いていた。




気づいたらいつもの天井で


いや、正確にいえば天井だけ一緒で周りの家具は全く違った。


「起きた?」

その顔を見て昨日までの記憶が戻ってきた。


「あっコホッコホッ」

返事しようとしたのにむせた。

カッコ悪っ!


暁人「昨日の夜、話してる途中に高熱で倒れたんだ。喉もやられてるから声出にくいでしょ」


そうだ私、人ん家で倒れるとか何やってんだ。

「先生、今何時?ゴホッ」


暁人「朝の4時」


なに!?もうそんな時間なのか


早く家帰って、風呂入って学校の準備しないと!

飛び起きると、及川さんに押し返された。

いつもなら起きた状態で保ってられるのに、今日は体に力が入らない


暁人「まさか、学校行く気?」


「もちろん。」


暁人「待って、昨日39℃あったんだよ。」


「大切なのは今でしょ」


暁人「なら今熱計って

これで38℃あったら学校は諦めてよね?」


「なんか先生みたい。」


暁人「いや、先生なんだけど。
ちゃんと医師免許持ってるから」





私は言われた通り体温計を挟んだ。


「そういえば、芽衣は?」


暁人「芽衣ちゃんなら俺の部屋で寝てるよ。昨日、そうとう心配してた。」



「そう。」


ピピピッ

ちょうどよく鳴った体温計を見ると37.8という数字が見えた。


暁人「うわ、微妙…」


「約束は約束だからね」


玄関に向かって歩き出した私に忠告するように言った


暁人「いい?くれぐれも無理はしないようにね。あと、学校の帰りに病院寄ってって。話があるから。」



「はいはい。分かりましたよ、及川先生。」



私はわざと及川先生を強調するようにその部分だけ振り向いて言ってみせた。

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