今夜、きみの手に触れさせて


もうそれぞれの自転車にまたがって、今にも走り出しそうな矢代くんとヤスくんに、律ちゃんが叫ぶ。


「待って。わたしも行くっ」


「いや、危ねーから無理だ。連れてって何かあったら修吾に殺される」


ヤスくんはそう首を振った。




「でもっ」


「大丈夫。修吾は強いし、みんな向かってるから。さっさと片付けて、即連絡入れるよ」


半泣きの律ちゃんを励ますように、ヤスくんは明るい声を出す。




「で、でも、連絡ってどうやって? わたし今ケータイ持ってない」


「えっ」


律ちゃんの言葉に、ヤスくんは一瞬困って、わたしを見た。


いや、わたしのケータイ番号なんか誰も知らないし、
今、交換してる場合じゃない。




「あ、じゃあ、純太んちで待ってて。あいつの家電に連絡するからっ」


ヤスくんはそう言い残して自転車を漕ぎ出した。



律ちゃんにもわたしにも目もくれずに、とっくに走り去った矢代くんを追いかけるように……。


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