今夜、きみの手に触れさせて
また歩き出したわたしたちは、次の信号で帰る道が分かれる。
しばらくふたりで無言のまま歩いていて、別れ際に藤沢くんがわたしを呼んだ。
「月島さん」
「ん?」
「ゴメン。さっきはああ言ったけど、すぐにあきらめがつくような想いじゃないんだ」
「えっ?」
「しばらくキミに片想いしてるから、そのつもりで」
「そんな……。どうしてわたしなんかを……」
もったいな過ぎるよ。
だけど藤沢くんは、それには答えずにこう言った。
「だから彼氏とダメになったら、いつでもオレのところへ来て。今度はもう卒業まで待ったりしないから。全力でキミを受け止めるから」
「藤沢くん……」
「キミが好きだ」
真っ直ぐな目をして、それだけ言うと、彼は自転車にまたがり、自分の道を走っていった。
ゴメンなさい……。
信号を待ちながら立ち尽くし、わたしはその後ろ姿をずっとずっと見送っていた。