軟派な王子様【完結】
翔のことを私はなんだと思ってたんだろう。

翔は虚ろな目を私の方に向けて、うっすらと笑った。


その笑顔は本物で、何よりも嬉しそうで、まるで目の前に広がる花火を見るような目をしていた。

そして、震える手で私の手を掴んだ。


「俺の負けだ。」


「え??」

聞きたくない。


「五ヶ月でお前を落とすことが出来なかった。それどころか…」




翔は私に悲しい目を向けた。
それは雨なのか涙なのか…。
潤む瞳を隠すように…。









「俺がお前を好きになっちまった…。」










私の目から初めて涙が溢れた。

何年流していなかっただろうか。
今まで溜まっていたすべてのものが吹き出すように、流れ出してくる。


意識の朦朧とする翔には、私の涙が頬を伝う雨に見える。

「もう、お前には付き纏わない。安心しろ。」


そういいながらも私の手をしっかりと握る翔の手が悲しくて、せつなくて…。







意識が朦朧としていた。

はっきりわかるのは、俺の握る手が一姫だということだけ…。
< 142 / 148 >

この作品をシェア

pagetop