この思いを迷宮に捧ぐ
千砂はぎくりとした。


薄い布の向こうで、背の高い男が自分を見下ろしていることに気が付いた。

「ヴェールを上げてください」

神父の指示で、翠が千砂の顔の前のヴェールを上げたら、視界がクリアになって、千砂にも彼の表情がよく見えた。


「確かに、そっくりだ」


その呟きは、小さくて、千砂にも聞き取れるかどうかという、ギリギリのボリュームだった。

見たことのない、きれいな顔をしながら。

千砂は、確かに翠が美砂に憧れていたのだと、理屈を抜きに悟ることになった。

「もう少しヴェールのレースを整えて」

介添人が小声でそう言っても、翠は眩しいような顔で、切ない胸の痛みに耐えることしかできずに、千砂を見つめ続けていた。
仕方なく、介添人が手を伸ばして、千砂のヴェールを直しながら言った。

「しっかりして下さいな。そんなに花嫁に見とれていたら、式になりませんよ」

花嫁ではなく花嫁の姉に、だと、千砂は心の中で訂正した。

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