memory
四日目
「はい。分かりました。それでは、今日の1時にお伺いいたします。それでは、失礼します。」
電話を切って一息ついた。悪いことなんかなんにもしていなくても、やっぱり警察関係者の人と話すのは緊張するもんだ。
「次元、お疲れ。」
「うん。明日の1時だって。何か分かることがあるといいんだけど。」
あれから他の記事には目を通したけど、他に得られるものはなかった。分かったこと、というのは自分が昔行方不明になって、堺町とかいう裏山で発見されたこと。
他に得られる情報があるとしたら、警察署にある過去の資料を見せてもらうことくらいだった。事件になって世間に知られていたくらいだから、きっと、いや、絶対にあるはずだ。
そんなことを考えながら昼食を食べていると、シルクがこっちをじっと見てくる。
「何?どうかしたの?」
「いや、美味しそうだなって思って。」
「食べる?」
「私は死神だから、食べることはできないの。」
困ったように笑うシルクを見て不思議に思った。
「え。シルクは食べたことがないのに食べ物を美味しそうって思ってるの?」
僕の質問にシルクは驚いた顔をした。
「失礼だな。食べたことぐらい、あるよ。」
シルクは少し考えた後、1人で分かったような顔をして1人で納得し始めた。
「私はね、元の姿は人間だったんだよ。ま、今は死神になってるんだけどね。」
シルクの突然のカミングアウトに、僕はしばらく何も言えなくなった。
「はい?」
「死神って、もともと人間だった人が、強い後悔とか無念とか。そういうのを持っている人が、身体から魂だけが抜けて死神になるの。」
「っていうことは、シルクの身体はまだどこかにあるの?」
「うん。身体はまだこの世界にあるよ。」
「家族とか、友達とかはみんな心配してるんじゃないの?」
「まあ、こうして元気に死神やってるからいいんじゃないかな。」
そう言って微笑むシルクに、僕は更に呆れる。
「シルクはいいよね。楽観的で。」
「長年死神やってれば楽観的にもなるよ。だって、死神になったらなんにもやることがなくて困るんだもん。暇で暇で仕方がない上に、なんにもできないんだからね。」
あまりに自然に話すシルクは、ときたま人間かと錯覚するほど不思議な死神だった。ふと、シルクの後悔したことってなんだったんだろうって思ったが、聞かずに心の中だけで留めておくことにした。
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