それはきっと始まりでしかなく






「好きです、先生」
「知ってます」
「先生は狡いです」
「陽さんより年上ですから。多少アタマは回りますよ」
「……おじさん」
「おじさん上等」
「佐野先生」
「昴、でいいですよ」
「……昴さん」
「はい」




 ああ、もう。

 妙に照れ臭くなったが、構うものか。夏の恋はあまり長続きしないというか、どうなのだろう。
 真上から照りつける太陽の熱さを感じながら、私はいう。





「好きです。大好きです」
「僕も―――陽さんのこと、大好きですよ」





 どこにいたって、苦しさからは逃げれれない。けれど、と思う。


 佐野先生は、私を人魚かと思ったといった。人魚、人魚か。人魚姫は最後泡になってしまったが、私は違う。泡になんかならない。私には足がある。腕がある。言葉をつたえるための声も、唇もある。姫なんかじゃないし、先生だって王子じゃない。普通の、たまたまやってきた医者と、自暴自棄となった女だ。


 私は、まだ頑張れる。いや、頑張れるはずだ。こんなところでへこたれている場合じゃない。

 たぶん妹と一緒に住んで働くようになっても、泣きたくなることもあるだろう。辛いとも思うはずだ。


 豪快に海に入り、顔を出して「着衣泳は厳しいですね」などという佐野先生―――昴さんがいれば、なんとなかなるかもと私は思った。いろんな問題があっても、昴さんとなら。




「陽さーん」





 海から上がった昴さんはべしょぬれで、仕方ないと私はタオルを用意してやるべく砂浜へと歩き始めた。
 後ろでは、昴さんと出会うこととなった海の、波の音を聞きながら。
 



《それはきっと始まりでしかなく》








14/8/3


< 11 / 11 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

甘い匂いに立ちつくす

総文字数/1,797

恋愛(学園)4ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「何つっ立ってんのさ」 「いや、別に…」 詩織から俺は目をそらした。 こいつも、一応は女なんだよな。 そう思いながら。 腐れ縁男子×しっかり女子 *見やすいように改行等してきます
つまり君を

総文字数/1,605

恋愛(学園)3ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「どうしてって、考えるのよ」 「どうしてだと思う?」 「そりゃあ、友達だから」 「疑問系なんだね。そんなにわかりづらい?」 「何が」 雲行きが怪しい。そう思った。 *見やすいように改行等をしています。
彼の一言は私を次々と変える

総文字数/6,290

恋愛(学園)7ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
  「白川」 「なに」 「浴衣、一番似合ってる」 「え…?」 来てよかった。 お母さん、この浴衣地味でもなんでもなかったよ。 それから美咲、楽しくないかもと思っちゃってごめん。むしろ最高だったかも。 《彼の一言は私を次々と変える》 *見やすいように改行等しています。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop