あなたへ。
「仲間がいて」
「そうなの?」
「そう」


 それからは高校のときと同じようにどうでもいい話をした。
 彼の通う大学は山の途中にあるため、毎日急な坂を登り降りしないといけないこと、飲み会などで毎日連れ回されること、アルバイトを始めたこと、将来のこととか。
「大学終わっても北海道にいようと思うんだ」
「なんで?」
「なんでって言われても…」
「帰ってこないの?」
「たまには戻るけどね」
「やりたいこと見つかったの?」
「まだ探してる途中」彼はコップに入っている牛乳を飲み干す。
「君はどうするの?」
「なにが?」
「大学終わったら」
「わかんない」
 そんな感じ。


 結局帰りも送ってもらった。
「今日はありがと」
「うん」
「また会おうよ」
「いつまでいるの?」
「僕?」
「うん」
「三日くらいかな」
「それだけ?」
「それだけ」それから彼は続けた。
「だからもう一度くらい会えるかなと思って」
「うん」
「次はいつにする?」
「明日」
「明日?」
「だめ?」
「僕は大丈夫だけど」
「私も大丈夫」
「それなら、明日は街のほうに行こうか?」
「うん」


 家に戻るとお姉ちゃんが私の部屋に勝手に入っていた。
「なにしてるの?」
「あ、お帰りー」
 お姉ちゃんはうつ伏せになって、小説を読んでいた。
「しおは小説読むっけか?」
「ううん」
「じゃあ、なんであんのよ?」
「貰った」
「彼氏に?」
「彼氏?」
「村上拓也」
「うん」
「へー」
 お姉ちゃんはそう言ってから小説を閉じ、床に置いた。
「彼氏の家で何してきたの?」
 ニヤニヤ顔のお姉ちゃん。
「話」
「それだけ?」
「うん」
「なんだつまんな~い」
 そう言ってからお姉ちゃんはごろっと一回転し、それから起き上がった。
「この小説借りてってもいい?」
「うん」
「じゃあ、借りてくよ」
「うん」

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