絆物語~クールな教師(アイツ)と狼少女の恋~
第三章 はじめての授業と恋の始まり

神の息子アンティストと妖精王は互いに〈契約(ファントリエル)〉をかわし、深い絆で結ばれた。

二人は妖精と人間の関係の模範となって、皆を指揮し、仲良く国づくりをはじめた。

人間と妖精が共に暮らす、楽園のような国をつくりたい、それが二人の夢であり皆の願いであった。

人々と妖精は気の合う者同士で契約をかわし、共に勤勉に働いた。

10年で立派な広場ができ、20年で川を渡る鉄橋ができ、100年経つ頃には議事堂や裁判所、法律が整備され、二人の夢、皆の願いは叶ったのだった。

妖精も人間も共に要職に就き政事を行う平和な楽園。この国は、妖精(ファンタジェル)と人間(ラキスティス)の双方の呼び名から、ファンタスティスと呼ばれるようになった。

ファンタスティスの平和は実に600年もの間続いたのだ。しかしその平和を壊す出来事がこの王国を待ち構えていた。

他国の侵略である。

今まで武力を持つ必要のなかった平和な王国は、はじめて守るために剣をとった。

気で創り上げられた剣の威力は絶大で、この時の戦にはファンタスティスが圧勝し、ファンタスティスははからずも莫大な富と領土を手にした。

折しも人口増加による土地不足に悩んでいた王国が、戦に利を見出してしまったのは、仕方のないことだったのだろうか。

是非はどうあれ、この出来事が、歯車を狂わせてしまったのは間違いない。

王国は大陸の東へ、南へと兵を動かし、戦に走り始めた。さらなる富と領土を求めて。

戦争をするために、妖精たちが兵として駆り出されるようになると、妖精たちはひどく消耗するようになった。

きれいな空気さえあれば何も食べる必要のない妖精に、彼らの疲労を癒せればと試しに気でつくった食べ物を与え始めたのは、間違いなく人間の善意からであったろう。

妖精たちだけでなく、人間も知らなかったのだ。

気は妖精に与えると強い中毒性があり、それが遺伝してしまうことを。

五年、十年、百年と経つうちに、しだいにすべての妖精は気を食べなければ生きられなくなってしまった。それが、食べ物による人間の妖精支配を生んだのだ。
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