絆物語~クールな教師(アイツ)と狼少女の恋~
この時はじめて恐ろしいと思った。

わけもわからず恐ろしいと思った。

振り返ると、背後でかわりに兄がつかまるのが見えた。

「ふん、興が冷めたわ。もうこうなったらこいつでいい。こいつを愛玩奴隷にする」

愛玩奴隷。

繁殖奴隷。

死。

それらの意味を、ファイツは知らずに済んだのかもしれない。

もしもそのまま広場に行けていたら。逃げることができていたら。

しかしファイツの目の前に新たな人間たちが現れた時、ファイツの人生からその可能性は消え去った。

「おい、ちょっと待て。お前。…やっぱり、こんな模様見たことがないぞ!」

新たな人間たち、それこそが、森勤務の“妖精先生”だった。

彼らはファイツの存在を見逃してはくれなかった。

ファイツは捕まり、奴隷妖精候補として登録されなおされ、すべての現実を…知ることとなったのだ。

ファイツは何日も悪夢にうなされた。

殺された父と母の夢。

奴隷となっていった兄弟たち、仲間たちの夢。

そして…気が付いたらしゃべることができなくなっていた。

しゃべりたくても、声を出せなくなっていたのだ。

能力に目覚める時が来ても、ファイツはぷすぷすと煙を出すことしかできなかった。

だから、一匹だけの特別クラスで経過を見ることとなったのだった。

ファイツは憎んだ。

人間を、役人を、妖精先生を、この世界を。

復讐だけが、生きる意味となった。

のちに仲間たちから伝え聞いた「伝説の日」の到来を、ファイツは待った。

妖精王が戻り、灼熱の炎で人間たちすべてを焼き尽くす…そして妖精たちを気の中毒から解放し、新たな楽園へと連れて行ってくれるという日。

無論、待ってばかりはいられない。

―まずは目の前のこいつを、いわば仇の一味のこいつを、両親を侮辱したこいつを、なんとしても焼き払ってやる!
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