絆物語~クールな教師(アイツ)と狼少女の恋~
テフィオが頭痛をもよおしはじめているのをよそに、シルフィは意気揚々と人々に声をかけはじめた。

しかし、人々はシルフィを無視した。中には嫌悪感もあらわに暴言を吐いていく者もいた。それでもにこにこと笑顔を絶やさず、まったくめげた様子のないシルフィに、テフィオはまたも驚きを禁じ得なかった。ファイツもだった。

二人は同時に思っていた。

何がこいつをこうまで熱心にさせているのか? と。

数時間後、やっと一人の子供―10歳くらいの幼い男の子が立ち止まってくれた時は、ついテフィオとファイツまで、喝采をあげたくなってしまった。無論、二人とも決してそうはしなかったが。

「こんにちは! いつもここを通ってくれる子だよね?」

「………」

その男の子はじっと、探るようにシルフィの目をみつめる。

「何か相談があればなんでも聞くよ。いつもみたいに動物を触っていくだけでももちろんいいよ」

男の子は何も言わずに、片方の手で遠慮がちにプチの頭を、もう片方の手でシャドウのふさふさの毛皮を撫でた。そうしながら、突然ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

「ど、どうしたの?」

男の子は涙をぬぐったが、あとからあとから涙はあふれ、こぼれおちる。

やがて小さな声で、こう尋ねた。

「お姉さん…本当になんでも相談に乗ってくれるの…?」

「もちろんだよ! だからそんなに泣かないで…」

シルフィは席を立ち、屈み込むと、そっと男の子を抱きしめた。

テフィオとファイツが仰天したのは言うまでもない。

こんな抱擁は、この都市ですでに、とっくの昔に忘れ去られたものだ。

愛など、絆など、なくして久しい。

それなのにシルフィのこの行動は、まるで愛が…絆が存在するかのようではないか。

男の子が心を開き、シルフィにぽつりぽつりと相談する間、テフィオとファイツは愕然としたままであった。
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