今日は良い日だ
反芻


イーコは、キリクが驚くほどの業績を上げてみせた。

大通りに劣るとは言え、キリクが露天を出している通りは人の通りの多い路地だった。その為、イーコの情報網が届かない人間が居るのは仕方のないことであり当たり前のことだった。いくらイーコの耳が良いと言っても、人は自分の欲しいものについて常に会話しているわけではないからだ。

だが日が経つにつれ、イーコは着実に情報網を伸ばしていっていた。傍から見ている者にはもしかしたら魔法のように見えたかもしれない。実際、キリクの店は「客の欲しいものをぴたりと言い当てる」として、半ば占い店のような噂と共に知名度を上げていった。あまりにもイーコの耳打ちが正確なので種明かしを求めると、彼女は「下調べを少し……」とだけ教えてくれた。商い中、マントに隠れた彼女の手元をこっそり覗き込んでみたところ、そこには小さなノートのようなものが握られていて、子供の落書きのような似顔絵とその人が欲しがっているものが書かれていた。あまりの健気さにキリクが感嘆の溜め息を漏らした程だ。

そうしてやがて、彼らの商売は五日目を迎えた。約束の最終日だ。滞在期間をはっきりと決めていたわけではなかったが、キリクは当初の予定通りに今日でこの町を離れることを心に決めていた。理由は、商品の数だ。予想を超えたイーコの活躍に、キリクの店の商品は猛烈な勢いで減っていっていた。東西南北、あらゆる町の品を揃えていたはずなのだが、それが今ではもう半分以下にまでなっている。これでは客の要望に応えられないこともあるだろう。そろそろ商品の調達に回らなければいけないのだ。その為にはこの町を出て、また様々な場所へ行かなくては。


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