絶対王子は、ご機嫌ななめ

「寝坊したのか?」

「す、すみません……」

気が動転してしまい結局何も出来なかった私は、右手に鞄、左手にトーストという女らしからぬ姿で政宗さんの車に乗り込んだ。しかも髪は梳かしただけ、顔はスッピンという醜態を晒して……。

「少し遠回りしてやるから、そのトースト早く食べろ」

政宗さんにしては、優しいこと言ってくれるじゃないの。口元が勝手にほころんでしまい、慌ててそれを真一文字に結ぶ。

何喜んじゃってるのよ、私。今日寝坊したのだって、元を正せば昨日の政宗さんが原因じゃない。ここは喜ぶんじゃなくて、怒っていいところでしょ!

でもそこは惚れた弱みというか、助手席に座っている時点でそんなことはどうでも良くなってしまうというか……。

トーストをかじりながら政宗さんの運転姿を盗み見ると、素敵な横顔にうっとりしてしまう。

「ニヤニヤしてないで、さっさと食えって言ってんだろ」

「は、はい……」

あは、怒られた。でも政宗さんのことが好きすぎて、叱られても嬉しくなってしまう私ってどうなの?

バカまるだし……。

正気に戻ると、残っていたトーストを全部口に放り込む。でも思ったよりも量が多すぎて、ゴホゴホッとむせ返してしまった。

「おい、大丈夫か? 早くこれ飲め」

政宗さんからお茶の入ったペットボトルを渡されると、勢いよくそれを飲む。喉につっかえていたパンが食道に流れこむと、ホッと息をつく。



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