絶対王子は、ご機嫌ななめ

「柚子ちゃん、どうしたの? 大丈夫?」

智之さんは私の様子がおかしいことに気づいたのか、心配そうな顔を見せると顔を覗きこんできた。

何か返事をしなくちゃ……そう分かっているのに。今口を開いたら一緒に涙も溢れだしてしまいそうで、智之さんにクルッと背を向けた。

「智之さん。私おしぼりを取りに行く途中だったので、これで失礼します」

自分でも驚くほど小さな声で、智之さんに聞こえたかどうかも分からないまま、その場を離れようと足が勝手に動き出す。

「え、えぇ!? ちょっと、柚子ちゃん待ってよ!」

そんなこと言われても、待てるはずがない。

堪えきれなかった涙が知らぬ間に溢れ、頬を濡らしている。こんな顔を智之さんに見られたら、私の気持ちを知られてしまう。

政宗さんと円歌ちゃんの関係を知ってしまった今、それだけはどうしても避けたい。

「柚子ちゃん!」

何度も呼び止める智之さんの声が聞こえないように耳をふさぎ、倉庫に向かって無心に走り続けた。



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