B級彼女とS級彼氏

「今日は本当にすみません、慎吾さん」
「いや、本当にいいんだよ。気にしないで」

 慎吾さんが私の自転車を運転し、私は慎吾さんの後ろに跨って座っている。応急処置はしたものの、自転車に乗ると風にのってほのかに香る甘酸っぱい香り。今回ばっかりは自分で運転した方が良かったんじゃないかと思ったなんて、ぶっ掛けてしまった慎吾さんには口が裂けても言えなかった。

 私の家は駅の反対側にある。
「夜も遅いから」と、自分の身なりをかえりみず、家まで送ってくれる紳士な慎吾さんに、輝ちゃんが好きになった理由(わけ)が少し判った様な気がした。
 ことごとく、この人は他人に優しく出来る人なのだ。きっと、輝ちゃんもそんな慎吾さんの優しいところに夢中になってしまったんだと思う。
 私もいつか出来るんだろうか? ――そんな風に思える人が。

「えーっと、ここだっけ?」

 そんな事をボーっと考えていると、キィッっと錆び付いたブレーキ音がしたと同時に、顔を慎吾さんの背中にぶつけてしまった。辺りを見渡して、自分のアパートの前だということに気がつき、慌てて自転車の荷台から降りた。

「あ、はい。ここです。ありがとう御座います」

 ペコリと頭を下げると、笑顔で自転車のハンドルを渡された。

「じゃあ、お休み」

 踵を返し、自分の汚れた服をまじまじと見ながら歩いているその背中を、私は思わず呼び止めた。

「……あ、慎吾さん!」
「ん?」
「あの、えと……。うち、寄って行って下さい!」

 そう声を掛けると、振り返った慎吾さんの顔からあれよあれよという間に笑顔が消えていった。

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