名前を教えてあげる。

順が、ヒロ、ごめんなさい!と言ってオーバーに手を合わせ、ヒロがフン!とそっぽを向く。


漫才コンビみたいなやり取りに、美緒の笑いは止まらなくなる。


「あっ、そうだ!
順、ヒロが大阪土産にワッフル買ってきてくれたんだよ。私、ハーブティー淹れるね!」


リビングからキッチンへ、お腹を揺すようにして移動する。


「あ……」


上棚から、カップを取り出そうとした時。

美緒はふと、ゾクッと悪寒を感じて振り向いた。


リビングにいる順とヒロは、まだ何かを言い合っている。


兄弟のように仲のよい2人。
その2人に祝福されて生まれてくる赤ん坊。


怖いくらい幸せだった。
18年、生きてきた中で1番。


それなのに、足元からじわじわと皮膚が粟立ってくる。


それはやがて、美緒の全身を覆い尽くし、ティーバッグをカップに入れる右手が震えてしまう。


なぜか分からない。

ふと、この幸せが長くは続かない予感がした。


違う……!


美緒は振り払う。

何も、
ひとつの欠片も失いたくないからだ。


人は幸せだと不安になって、鳥肌が立つんだ……


いつの間にか、こぼれ落ちていた涙を美緒は手の甲で拭った。





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