名前を教えてあげる。


『車、運転してみたいっていってたじゃん?教習所に通ってみれば?気分転換にもなるよ』


2人目の子供を流産して塞ぎ込む美緒に、そう勧めてくれたのは順だった。


外に出るのは億劫だったけれど、
家にこもっていると、嫌なことばかり考えてしまう。

身体はもう癒えたけれど、心に受けた屈辱はなかなか消えなかった。


順の母・春香が携帯の画像を盗み見たことを、順にはとても言えなかった。


自分の恥ずかしい姿を思い出してしまうし、その携帯は、とっくに春香が処分していて画像も現存しないのだから、忘れることを選んだ。


それなのに、相変わらず春香は、夜11時になると一人息子に電話を掛けてきた。


順によると春香は、健康診断で「心拍数に軽い異常」があることが判明したという。
それを息子の声を聴く口実にした。


『胸がドキドキするの。パパもシンガポールでしょ。1人きりだと、怖くて』


か細い声で言われては、順も冷たく出来ない。
予備校の帰りなど、毎日のように母の様子を見に通うようになっていた。


それは、順が親思いな優しい息子だから。
良い親子関係は、そんな風にするのが当たり前なんだ。

美緒はそう思い込もうとした。




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