名前を教えてあげる。

それは光太郎がここに住まう前と同じ金額だから、大人の男が1人増えた分、赤字になるのは当然だった。


でも、光太郎に文句を言う事は出来なかった。


美緒にとって、光太郎は、絶対失いたくたくないかけがいのない存在になっていたから。



知り合ったのは、光太郎が客として仕事仲間達数人と『リトルマーメイド』を訪れたのがきっかけだった。



ーーお姉さん、メルアドお願い!


同僚達にけしかけられ、ほろ酔いで顔を赤くした光太郎が、運んできた料理をテーブルに並べる美緒の目の前に箸袋とボールペンをぬっと突き出した。


今時な感じに甘い顔立ちをした光太郎に、美緒のほうも一目惚れだった。


久しぶりの遊びでない恋が始まった。
多分、恵理奈の実父、中里順以来の。

背はあまり高くないが、肩のがっちりした光太郎の体形は順に少し似ていた。


小柄で『リスっぽい』顔立ちの美緒に、言い寄ってくる男は時々いた。けれど、美緒に幼い子供がいると知ると大抵が去っていく。

残っても、美緒は『遊びの女』に格下げされてしまう。


野口光太郎は違った。
頼る肉親もおらず、女一人で子供を育てるのは大変なことだ、と美緒をとても不憫がった。


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