名前を教えてあげる。

・新しいドア



「美緒、ただいま!」


手洗いとうがいを済ませた順が台所に立つ美緒の肩を抱き、頬っぺたにチュッとキスをする。


「お、すげ。美味そう」

「…キャッ!おかえりなさい」


美緒はくすぐったくていつも片目をつぶってしまう。

振り向くと、いつもの健康的な明るい笑顔。


順はいつも外出先から戻ると、外国風に美緒にキスをするのだ。

次に順は、二間続きの隣の部屋に移動して、ベビー・ラックで寝ている愛娘の頬にもキスをする。


夕飯は美緒の得意料理のオムライスだった。


「ああ、ねえ!順」


台所から、美緒は恵理奈の寝顔を眺める順に話しかけた。
人参のグラッセを皿に盛りながら。


「何?」


「私ね、今度の土曜日の昼間、ホッシーと逢う約束したの。悪いんだけど、恵理奈をお願いしてもいい?」


「ああ。もちろんいいよ。楽しんできて」


順が快く引き受けていることはわかっていた。
それによって多少の問題が発生するけれど、恵理奈の預け先に選択肢はない。
見て見ぬふりをするしかなかった。


友達のいない美緒をーーー自分は予備校でたくさんの友人が出来たのにーーー順は内心、とても心配していたから、
旧友『ホッシー』との偶然の再会を自分のことのように喜んでくれた。






< 222 / 459 >

この作品をシェア

pagetop