名前を教えてあげる。

哲平の視線は正面にある遊具広場で遊ぶ子供達に固定されたまま、動かない。

小さな滑り台や、動物の形をしたロデオで遊ぶ無邪気な姿。


「…ねえ。哲平の彼女って、どんな人?」


「…いきなり?」


哲平はゆっくりと美緒の方を見た。

やった、こっち見た、と美緒は思った。


「…別に普通の人だよ」


哲平は首を竦めて、灰皿に短い煙草をおしこんだ。


「フランスでパティシエールの勉強してるんでしょ?すごいなあ」


「別にすごくはねえよ……子供は、今日、どうした?旦那預かってくれてんのか?」


(また、哲平が話をそらした…)

美緒は思った。


「ああ、恵理奈はおばあちゃんちだよ。旦那は予備校だから。イヤだけど仕方ないんだ」


言われるまで恵理奈の存在がすっかり頭から消えていたことに気付き、自分でも驚いた。


(赤ちゃん産んでから、ずっと育児のことばっか考えてたのに…)


今は否が応でも、哲平に惹きつけられてしまうのだ。

哲平の恋に興味深々の美緒はメールでも、彼女のことを質問するのだけれど、哲平は詳しいことを教えてくれなかった。

歳は哲平より5歳年上だという。

哲平とは、何度もメールのやりとりを重ねていたから、三田村学園を出てからの彼のかいつまんだ過去は知っていた。

哲平が休みの日、チャットのようにメールをかわしたこともあったーーー
順が不在の時、恵理奈の世話をしながらーーー


哲平は高校卒業後、様々な職を転々としたという。





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