名前を教えてあげる。


不器用でお人好しで、優しさゆえに人に気を使い過ぎて疲れてしまう。そのくせ、ケチな男に見られたくないと虚勢を張る。


そんな光太郎の脆さを守ってやりたかった。

いつの間にか、恵理奈も小さな手のひらを広げて、光太郎の背中に縋り付いていた。


「…お前は親いねえし……」


光太郎は目を伏せたまま、独り言みたいに言う。


親。

(こんな時、親がいれば子供を窮地から救ってくれるのかな…?)


普段は考えもしないのに、血の繋がった頼れる肉親がいないことが切なくなる。


美緒は、消えかけていた記憶の糸を辿ってみる。
祖母が死に、天涯孤独になった。

…そんな境遇の美緒を守ってくれたのは、三田村学園だ。

規則だらけで決して満足出来る場所とは言い難かったけれど、温かい食事と勉強が出来るスペースなど子供が生きていくのに必要な環境は与えてくれた。


学園が美緒の親だ。
そこで1番、慣れ親しんだ人物が肉親に近い、といえるかもしれない。

それは、園長先生ではない。

確かに追い詰められた美緒を庇ってくれたけれど、年寄りの園長は、何もかも相談出来る相手ではなかった。


ましてや、金のことなんて。


「みどりちゃんなら、貸してくれるかな…」


美緒は口の中で呟いた。






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