名前を教えてあげる。

・思いがけない訪問者

やがてタクシーは、吸い寄せられるように国分五郎の茅葺屋根の家へと向かってきた。


赤と黄色の車体が目の前で停まり、恵理奈は慌てて美緒の元へ戻ってきた。


「あらあ。五郎さんの客かねえ?」


後部座席に黒いニットキャップを被った人影が見えた。


「あれ…みどりちゃん?」


タクシーから降りてきた女は、田中みどりだった。


「やっと着いたわ」


みどりは、少し眉を顰めて言った。
ピンクの濃いめのアイシャドウに紅い口紅。
シックなオリーブグリーンのトレンチコートに黒い皮のブーツという華やかいでたちは、美緒の知っているみどりではない。

みどりの方が年上なのに、雅子よりも断然若く見えた。


美緒も思わず立ち上がり、雅子の横に並ぶ。すると雅子は、みどりの方に駆け寄り、ぺこりとお辞儀をした。


「まあまあ。お見合いパーティーに参加される方ですね?」


みどりは「え?」というような顔をして、美緒に助けを求める視線を送る。


「会場はね、ここじゃないです。この道をもっと川下の方にある公民館でやるんですが。ここから20分くらいで着きますわ」


早口で川の向こうを指差す雅子を避けるようにして、みどりは美緒に歩み寄った。





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