名前を教えてあげる。
塾の最寄り駅で途中下車する順に
「頑張ってね」
と明るく言って手を振った。


「美緒、ありがとう」


順は、にっこりと笑って軽く右手を上げると、くるりと踵を返し、電車を降りた。


夏休みは始まったばかりなのに。

もう、恋人と伸びやかに過ごせる時間は終わってしまった。

自分が大人でも子供でもない、と美緒は思う。


「淋しいな……」


電車の窓から青過ぎる夏の空を見ながら呟いた途端。


美緒はきりり、と下腹の攣る感覚に襲われた。

生理痛にも似ているけれど、生理は5日前に終わったばかりだ。


ーーイタタ…やり過ぎちゃったかな…


吊り輪につかまりながら、空いた左手で腹をさすった。





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