恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


「由宇?」
「おまえ、今まで誰と何してた?」
「え?」
「誰の匂いつけてるんだって聞いてんだけど」

匂い?と聞き返してから、名取くんの香水を思い出す。

「ああ、今日名取くんと一緒だったからそれで移っちゃったのかも……。なんかね、お姉さんが香水好きで名取くんにも持ち歩けって言うから持ち歩いてるんだって見せてくれたりして、香水の瓶私も触った……」
「名取と?」
「うん。由宇に言いそびれちゃってたんだけど、先週内線がかかってきて今日仕事終わりに待ってるからって言われて……由宇?」

私が抱きついたままだった手を由宇がはがすから、どうしたのかと思って名前を呼ぶと、由宇は私から一歩離れて目を逸らす。
そして。

「離れろ」

確かにそう言った。
明らかな拒絶の言葉に戸惑っている私に、由宇は目を逸らしたまま言う。

「他の男の匂いさせてそれ以上近づくな」

今までされた事がなかった、由宇からの初めての拒絶。
それは、今までのどんな憎まれ口よりも大きな衝撃を持って私の中に飛び込んできた。

飛び込んできたものが、心の中心まで落ちた後、ぱぁんと弾けて……瞬間、何も考えられなくなる。
気持ちが、真っ暗に染まっていた。

何も言えずに立ちすくむ私に由宇は少ししてからバツが悪そうに視線を移して……今度は違う理由で顔をしかめる。


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