恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―



「待てって。梓織」

18時20分。
仕事を終えて会社を出ると、いつものように由宇が待っていた。

それを無視して歩く私の後ろを、由宇がついてくる。

「おまえ何怒ってんだよ。昼、ファミレスでもメール気づいてたくせに無視するし」

由宇は勘もいいし、私の気持ちなんていつもお見通しなのに、今私が怒ってる理由は気づいていないみたいだった。
それか……もしかしたら気づいてて、わざと気づかないふりをしているのかもしれないけれど。

何度か名前を呼ばれて、それでも無視してツンツン歩いていると、業を煮やした由宇に腕を掴まれて無理やり立ち止まらせられた。
会社から300メートルほど離れた、大きな交差点の手前。
ダイニングバーや居酒屋が並ぶ、人通りの多い道で立ち止まるなんて、他の人にも迷惑だ。

そう訴えた私に、由宇は腕を掴んだまま道の端に寄った。
どうやら怒ってる理由をちゃんと言わない限り動く気はないらしい。

「お昼、横田さんと一緒だったのに、なんで途中で帰ろうとしたの?」

そう切り出した私に、由宇は少し面倒くさそうな顔で答える。
やっぱりその事かって感じの態度を見ると、由宇は私の予想通り無視している理由に気づいてたんだ。

< 167 / 214 >

この作品をシェア

pagetop