グッバイ・メロディー


「なんで、追いかけないんだよ」


いきなり、責めたてるように言葉を発したのは彼の弟だった。


「好きなんだろ。ウゼェくらいそう言ってただろ。普段見向きもしない弟に、べらべらいろんなことしゃべったりするくらい」


じれったそうに薄いくちびるを噛んで。


「おまえが行かないなら、おれが行く」


ひとつの迷いもなく、ヒロくんのスニーカーが雑草だらけの中庭を蹴った。

いつのまにか自分と同じような背丈になっているうしろ姿を眺めながら、兄は力なく笑う。


「嘘だろ、勘弁してくれよ、マジかよ……」


そしてひとりごとみたいにこぼすと、彼も同じように、弟を追いかけることを決めたようだった。


「花奈実、季沙も、ありがとうな」


はなちゃんのつやつやなボブが、アキくんの手のひらを受け入れる。

ぐしゃりと雑に撫でられたことに文句をつけながら、それでも元カノジョはうなずいた。

そこには、ふたりにしかわからないたしかな愛情があるのだと思った。


恋のかたちはきっとひとつだけじゃない。

傷つきながら、傷つけながら、泣きながら、それでも人は、誰かを想わずにはいられないんだ。


わたしにも、いつかその気持ちがわかる日がくるのかな。

どうしようもなく誰かを想って、切なくなるような夜がやってくるのかな。

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