南の島で自転車に乗って(8p)
 
隆造はたまらず自転車をおりて、押しはじめました。

ここはハルの生まれた南の小さな島です。
話に聞いていた小高い山の頂上を目指して、坂道を登っているところなのです。
しかし、さすがに年には勝てません。
息も切れ切れになり、とうとう自転車を放り出して、しゃがみ込んでしまいました。

「じさま」

振り向くと、十歳ぐらいの女の子が、下から自転車に乗って登ってきました。
真っ白なワンピースが年寄りの目にも眩しく輝いています。

「じさま、大丈夫?」

顔は紅潮し、前髪まで汗で濡れています。

「ああ、心配いらん。それより、頂上へはこの道でよかったんじゃろか」
「うん、そうだよ。じさまも空を飛びにやってきたの」

そう言えば、ハルもそんなことを言っていました。

「わしも、空を飛んでみたいもんじゃな」

ハルに聞かされた時には相手にもしなかった隆造でしたが、なぜだか今は空を飛んでみたいと思ったのでした。

女の子はしげしげと隆造をながめます。
そして、伺うような目付きで、ちょっと言ってみました。

「じさまも飛んでみる?」

 
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