博士と秘書のやさしい恋の始め方
「先生と井原さんって、合気道のお仲間なんですよね?」

「そうですが。それが何か?」

「いえ、なんだかとっても仲良しみたいだったので」

「あいつとは幼なじみなんです。腐れ縁ってやつですね」

「なるほど、それで……」

それでとは……?

「田中先生があんな風に話すのをはじめて見たので……」

あんな風というのは、いかにも粗野なあの言葉遣いのことか。

まいったな……。

「あいつとはいつもああいう調子で……すみません」

「いえっ、そんな……。なんかすごく新鮮でした。それに、とってもいいなって思ったんです。素の先生っていうか、知らなかった先生の一面を知ることができたし」

「そうですか……?」

「そうですよ。ラボでの折り目正しい先生もいいですけど、飾らないで話している感じもいいなって」

まるでさっき見た光景を思い出すように、山下さんがふふふと笑う。

すごく、照れくさい……。

しかしながら、居心地は悪くない。

彼女と一緒にいると、本当に寛いだ気持ちになる。

俺という人間のありままを受け入れられているような。

そんな安心感がある。


「遠回りする」と宣言したとおり、俺は本当にB市内のあちこちを巡って車を走らせた。

学術研究都市として造られたこの街には、大学や研究所がたくさんある。

また、大きな公園や文化施設も多く、近未来的というか風変わりな建築物も多く建っている。

一般的な観光名所とは少々違うが、ちょっとおもしろい場所だと俺は思う。

とりあえず仕事関係でつながりのある場所を押えつつ、いろいろな場所をまわった。

もっとも、この雨では車を降りてゆっくり見ることなどできないのだが。

「ここがB大学です。共同研究でうちのラボが世話になってるB大病院もすぐそばにあります」

名門の私立大学にありそうなレンガ造りの校舎と違い、B大学の校舎は無機的でメタリックなのが印象的だ。

少しだけ車をとめて、雨に濡れる校舎を遠目に眺めつつ話をした。
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