博士と秘書のやさしい恋の始め方
着実に時は流れ、過ぎゆく日々の中で、私は確実に変わった。

先生との恋が、縮こまっていた私の心を伸びやかに変えてくれた。

私は花の季節をすぎて豊かな緑を茂らせる木々たちをしみじみと眺めた。

なんだろう、ちょっぴり切なくも温かい……不思議な気持ち。

「季節は巡る、ですね」

「まあ、地軸が傾いているので」

「はい?」

チジク……???

「地軸が傾いているから季節というものが生じる。では、そもそもなぜ地軸が傾いていると季節の変化が生じるのかというと――」

うわわわっ、なんか難しい話になってきた……。

定理や仕組みを余すことなく説明しちゃうという……いわゆるひとつの理系男子の真骨頂。

けど、興ざめしたりはしなかった。

こういうことが、これからもちょいちょいあるのかなって。

情緒的な投げかけをしたはずなのに、なにくわぬ調子で論理的なこたえが返ってくる、みたいな? 

このちぐはぐな感じが妙におかしくて、生真面目に懇切丁寧な解説をする先生が今はちょっと可愛く思えた。

「えーと……なんていうか、地軸が傾いていてよかったです。とりあえず」

先生は一生懸命に教えてくれたのに、私の感想ときたら……。

けど、まんざらいい加減でもなかった。

だって――地軸の傾きとやらのおかげで、先生とこうして季節の移ろいを眺めることができるのだから。



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