博士と秘書のやさしい恋の始め方
「食堂でカツ丼だなんて久しぶりだわぁ。今日はお誕生会でランチのデリバリーでお祝いなのよ。ほんっと、弁当作りがないと朝は楽ねぇ」

「へぇー、ランチのデリバリーですかぁ。いまどきの保育園ってすごいんですね」

私は幼稚園だったけど、そんな豪勢なお誕生会ありえなかったもの。

そりゃあ時代が違うと言ってしまえばそれまでだけど。

「ほら、“ここ”の園って認可外の小規模園じゃない? 外国人の子も多いし、よその園に比べるとちょっと変わったところがあるのかもね」

“ここ”というのは、つまりB研究所のこと。

本所をはじめとして各研究所には保育園が設置されていて、三角さんの娘さんもそちらに通っている。

認可外の小規模園で給食室もないので毎日お弁当だし、認可園に比べると保育料も割高なのだとか。

それでも、何かあればすぐに走って駆け付けることができるし、保活の苦労をせずに預け先を確保できてありがたいと職員からは好評らしい。

海外からきている研究者の子どもたちもいるので、小集団ながらいろんな国の人たちと関われるも魅力なのだ三角さんは教えてくれた。

「来月はうちの子の誕生月でね。そうそう、7階の沖野(おきの)先生とか会計課の友部(ともべ)さんとかママ友なんだけど、子どもたちが同じ6月生まれでね」

お子さんの話をする三角さんは、厳しい技術者ではなく優しいママの顔だった。

職場が同じママ友さんとはほどよい距離感で、子どもの話だけでなく仕事の話もできるのだとか。

互いに話すことでストレス発散ができて、ずいぶん助けられているのだと三角さんはしみじみ言った。

「本当にね、私ってワーキングマザーとしては恵まれてるほうだと思うわ。布川先生も理解を示してくださって協力的だし」

「なるほど」

「それに、田中先生がいろいろ気を遣って考えてくれるからねぇ」

「そう、なんですか?」

その名前を聞いただけで、思わずどきり。

なんだか言葉と言葉のあいだに奇妙な間(ま)があいてしまった。

そういえば、あまり聞いたことがなかったけれど、テクニカルの人たちは田中先生のことをどんなふうに思っているのだろう?
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