「異世界ファンタジーで15+1のお題」二
009:歯車が止まる時
山道を戻る間も、竜に締めつけられた身体がずきずきと痛んだ。



現実には存在しない竜に出会い、さらにその竜に締めつけられそして会話をして……
そう考えれば、やはりこの夢は楽しい。
少し現実過ぎる点があるのが難点だが、こんな夢はめったに見られるものではない。
身体の痛みも私には楽しみの一つのように感じられた。

通りがかった村は、もう皆眠っているようで、村全体がしんと静まり返っていた。



(こういう所も現実的だな……)



そういえば、私も少し眠気を感じてきた。
だが、我慢出来ない程ではない。
村人達が、無事に戻って来た私の姿を見たらどんな反応を見せてくれるのか…
それが見せられないのは残念だったが、この夜更けにわざわざ一軒ずつ戸を叩いて回るわけにも行かない。
私は、村人達に会う事は諦めて、さらに先を急いだ。



歩いてるうちにだんだんと空が白んで来た。
それと同時に、私の瞼もどんどん重くなってきていた。
しかし、この森を抜ければあの扉のあった場所に出るはずだ。
私はあくびを噛み殺しながら、あと少し!と自分に何度も言い聞かせながら歩き続けていた。




「あった……」



森を抜けた時、私はあの扉を見つけた。
出て来た時は気が付いていなかったが、そこは小さな祠の裏側になっていた。
表に回ってみると、少年と一緒に参ったあの祠にそっくりだった。
祠の前には賽銭箱と鈴があり、格子戸の中は暗くて良く見えない。
そっくり同じだ。

再び、裏に回り、扉を開けると、そこには驚いたような顔をしたあの少女が立っていた。



「どうされましたか…?」

私に声をかけられてやっと少女は我に返ったようだ。



「あ…あの…」

「私が帰って来るとは考えていらっしゃらなかったのですね…」

「………」

どうやら図星だったようで、少女はそっと視線を逸らせた。
私は懐から赤い宝石を出すと、それを手の平に乗せて少女の前に差し出した。



「これは、まさか…!!」

「……そう…竜の瞳です…」

そう言った瞬間、少女は私の足元に平伏した。



「立って下さい。」

私は少女の腕を取り立たせると、少女に赤い宝石を手渡した。



「……本当にありがとうございました。
感謝致します。」

少女は私に向かって深深と頭を下げると、神殿の中を滑るように歩き出した。
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