「異世界ファンタジーで15+1のお題」二
011:終わらないあの日
少女が、格子戸を開けた時、ほんの一瞬眩い光を感じたような気がして私は目を閉じた。

次の瞬間、私がその目を開くと、私の隣には祠に向かって手を合わせる小さな瑞月の姿があった。



(これは……?)



そう、この場面は以前見たことがある。
彼が私をここに案内し、そしてここで二人でお参りをしたあの時だ。

その時、私の目の端を小さな物が過ぎ去った。
小指の先ほどの小さな物…
ふと目を上げれば、祠の脇には一本の桜の木があった。



「お兄さん、お願いはすんだ?」

「……あ……あぁ、すんだ。
瑞月…この桜…」

「……お兄さん…
どうして、僕の名前を知ってるの?」

「え……?」



(そうか、この時点では、私は彼の名をまだ知ってはいなかったのか…)



彼にどう答えたものかと考えている時のことだった。



「瑞月!」




「あ!ほむら様!」



これも、以前見たのと同じ場面だった。
しかし、この後が違っていた。



「瑞月…お参りに来るのは久しぶりだな。」

「うん、今日はこのお兄さんを連れて来たんだ。」

「そうか…では、気を付けて帰れよ。」

少女は、私の方を一瞥しただけで、どこかへ去ってしまった。




「…今のは神子さんかい?」

「そうだよ。ほむら様。」

「そうか…」



祠を出てから、時間が遡っている。
いや、祠に入ってからの時間が、まるでなかったことのように扱われているのだ。



(なんとも、難解な夢だこと…)



なかったことにされてはいるが、桜の木は私の望み通りに植えられている。
と、いうことは、おそらくあの神様も何事もなく、この祠にいらっしゃるということか…



(それなら、それで良い…)



「お兄さん、何を見てるの?」

「いや…美しい桜だと思ってな。」

「そうでしょう?この桜は年中、花を付けてるとても珍しい桜なんだよ。」

「そうか…」

風がそよぐ度に幾枚かのはなびらが、風に舞う…




「本当に、綺麗だな…」



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