「異世界ファンタジーで15+1のお題」二
「あ…あの、あなたは旅の方ですよね。
初めてここへ来られたのですよね?」

「ええ、そうですよ。
それがなにか?」

今の状況がなんとなく私を苛立たせていた。
だからこそ、こんなきつい物言いをしてしまい、言った後で少し後悔したが言ってしまった言葉はもう引っ込めることは出来ない。



「いえ…ただ、よくご存知だなと思いまして…」

「あぁ…先程、ちょっと教えてもらったんですよ…
あ…あの、もしよろしければあなたのお名前を教えていただけませんか?」

「え…?!
……私の名前は…玻璃…」

「玻璃…さん…」



(「玻璃」とは水晶のことではないか。
本名を言いたくないのか…)



「あの…あなたはこれからどちらへ?」

「丘の向こう側の町へ行ってみようと思っています。
そこなら宿もあるでしょうから。」

玻璃は、また驚いたような表情を見せた。
それは、今、まさに自分が言おうとしたことを、私が先に言ったからだと思う。



「そ…そうですか…
では、お気を付けて…」



私は丘を降りて行った。
やはり、あの時とまるで同じ光景が続いていた。
広がる畑の間に点在する民家…
そして、徐々に民家が増えていき、あの商店街…



(このあたりだ…
確か、このあたりで瑞月が飛び出して来るはずだ…)



「お兄さんも絵本を買いに来たの?」



(……やっぱりか…)



最初の時、私は瑞月の言った「絵本」に興味を示し、そして瑞月は私を本屋に案内してくれた。
では、ここで私が違うことを言ったらどうなるのだろう?



「いや、私は絵本を買いに来たわけじゃない。」

「そうなの?
じゃあ、お兄さんはここに何をしに来たの?」

「私は…竜の瞳を取りに来たんだ。」

「竜の瞳?
面白いことを言うんだね。
竜なんてものはこの世にはいないよ。
そんなことより、一度絵本を見てごらんよ。
もしかしたら、欲しい絵本があるかもしれないよ。」

答えを変えても、以前と同じことをさせようとしているようだった。
瑞月は細い道を通りぬけ裏通りを目指して走り出した。
私はそれを無視して、その場に立っていた。
それに気付いた瑞月が駆け戻り、私の手をひいて本屋へ行こうとする。



「やめておくれ。
私は本屋には行く気はないんだ。」

瑞月は立ち止まり、私の瞳をじっとみつめた。
涙で潤んだまっすぐな瞳で…
< 22 / 33 >

この作品をシェア

pagetop