明日も晴れ
7. 恋が始まる

和食屋さんを出て、まず気がついたのは人の数。和食屋さんに入る前よりも、通路を歩くお客さんの数が増えている。
もちろん、浴衣を着た人の割合も。



「まずいなあ……、屋上はいっぱいかもしれない」



ひとり言のように零して、今泉君が歩き出す。



通路を歩く人の流れと同じ方向へ。
屋上へ上がるエレベーターを目指して。
エレベーターの前には、思った通りの人だかり。



到着した上りのエレベーターは既に満員で乗り込むことすらできない。下りは空いているけど、下ってどうする。この調子じゃあ、既に屋上も混雑極まりないだろう。



エレベーターを待つ人たちはみんな殺気立っていて、肩が触れようものなら睨まれてしまう。
和食屋さんで、いい調子で話し込んでしまったからかな……と少し反省。



「他に行ってみようか」



今泉君が耳打ちして、くるりと身を翻した。こんな雑踏の中だというのに軽やかな身のこなし。



追いかけて駆け出そうとした私の手に、今泉君の手が重なった。今泉君は力を込めて握り直し、振り向きもしないでぐいぐい引っ張って歩き出す。


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