Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



“素直になれ”


何度そう繰り返しても、桃花はやはり解ってない様子だった。


「嘘なんて……ふ、ぁ!」


何も認めようとしない頑なな唇を、何度も何度も塞ぐ。ぼうっとなる直前まで追い詰めてから、オレは桃花へ問いかけた。


「言っただろう? アンタは自分にも嘘をついてる――と。妹に、アンタは何を感じた?」

「おう……かの?」

「そう、アンタが親代わりになって育てた妹。唯一の家族できょうだい……姉思いのいい妹」

まるで理想そのものの、“いい妹”だった桜花。姉を助けわがままを言わず、品性方正な優等生。友達も多くて文武両道。姉を困らせたり問題はちっとも起こさない、優しい思いやり溢れる少女。


絵に描いたようないい子っぷりだ。


だが、そういった人間は得てして何かが欠けていることが多い。真円になれる人間など、一握りどころかほとんどいないだろう。


完璧であればあるほど、本来の性質が抑圧され、どこかに歪みが生じるものだ。オレはそれを幼い頃から嫌と言うほど見てきた。


桃花にオレの言いたいことが伝わったのか、思案に耽るふうを見せてしばらくして、一気に暗く淀んだ表情になる。きっと過去の思い出したくない記憶を引っ張り出したんだろう。痛みを感じるような辛そうな顔になるが、オレは慰めも労りもしなかった。


己と向き合うこと――それはどんなに辛い作業でも、自分にしかできないものだ。自分の事を本当に理解してやれるのは結局自分しかいないのだから。


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