Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編
ヴァルヌスで





翌朝一番の便でドイツを経由し、ヴァルヌスへ帰国した。


10年ぶりに帰る祖国の空の色は変わらない。首都カッティエの石造りの街並みも、記憶にある通りだ。


あくまでもお忍びでの交換留学だったから、帰国はひっそりとしたもので。一般人と変わらないエコノミークラスで帰ってきた。


ましてや、母上の出迎えなど目立つことは極力断った。ベルンハルト城へ帰ればいくらでもお会いできるのだし、母上の体調や安全を考えれば仕方ないだろう。


無論、侍従長であるアルベルトやシークレットサービス等の護衛は同行してはいたが。一般人のふりをするアルベルトの仏頂面は、見ていて面白かった。笑うとこの世が終わると言わんばかりに愛想がない。


『アルベルト、少しは笑ったらどうだ? おまえだって見てくれは悪くないんだから、笑えば頬を染める女性も多いだろう』

『必要もないのに笑う理由はございません』


バッサリと切り捨てたアルベルトは、ドイツ語で書かれた経済新聞を眼鏡を掛けて目を通している。


やれやれ、と肩を竦めながらも、いつもだったら私もここで引っ込んでいた。


だが、私はどうしても確認したいことがあって話を続ける。


『おまえだってもう26だろう。貴族の跡取りとしてはそろそろ結婚を意識しなくていいのか?』


私がここまでプライベートなことに踏み込むのは、めったにない。だから、アルベルトも眉を寄せて怪訝そうにこちらへちらっと目を向けた。


『必要ならば、父上がよい縁談を持ってくるでしょう。ですが、なぜわたくしの結婚になど興味がおありですか?』


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