Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



だが、まだ今は動けない。


桃花の身の安全を考えれば、シュトラウス公爵を排除するのが一番とわかってはいる。しかし、表立ってことを起こすには準備不足だ。


相手は建国以来百年がっちりと中枢部に食い込み、血を吸い続けている寄生虫のような存在。無理に剥がそうとすれば本体(国)が危うくなる。それだけ大きな存在なのだ。


感情的に動いてはこちらの足が掬われ、身を滅ぼすだけだ。数多の修羅場を潜り抜けてきた百戦錬磨の化け物を相手にするには、私の力もまだ足りない。


「マリアとおっちゃんには引き続き手伝いを頼んでおく。私は私でやるべきことをするから」

『うん、それが良いね~完成が楽しみだなー。オープンしたらぼくもまた遊びに行くから~』

「ああ、それがいい」


それから雅幸といくつかのやり取りをして通話を切る。今度は盗聴や傍受の心配がない秘匿通信にしよう、と決めてそれだけは伝えておいた。


明日、バーク卿と会う。


新しく開店するモールでの取り扱い商品についての商談――というのが表向きの理由だが、本当の目的は彼の協力を得ること。


流通のみならず交通網関連会社を経営する彼は、今やシュトラウス公爵でさえ無視できない存在感がある。だが、いくら誘惑されたり脅されようが、きっぱりはね除ける気骨があった。


その気概の強さこそ、私が一番頼みになるものだ。どんな荒波にも決してぶれない芯の強さ。


バーク卿の協力が得られれば、シュトラウス公爵排除の道筋が見えてくる。ひいては、この国の未来の光明が見えるのだ。


(とにかく、明日だ……)


休むためにベッドに入る前、巾着袋に入れた南天の実を手のひらで眺める。 2人が出会った雪の日、雪うさぎに飾ってあった実を。


(桃花、どうか私に勇気をくれ。何も屈しない強さを……)


どうか彼女にも優しい日が訪れるようにと祈りながら、瞼を閉じた。


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