Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編

雪菜~アルベルト3




最初は、楽しかった記憶だから忘れないのだと考えていた。

幼い願いや夢を叶えてくれた彼女だから。バカがつくほどにお人好しで、底抜けに明るく前向きな彼女だから。薄暗い宮中の取り澄ました女どもとは違う。明るい太陽の下が似合う……。


ヴァルヌスに帰国してからというもの、以前と変わらず多忙な毎日を送っている。そんな中で時折雪菜の笑顔を思い出すのは、なぜなのだろう?


シュトラウス公爵の件は日本でもヴァルヌスでもほぼ決着が着いた。ヴァルヌスでは裁判にかけられるが、間違いなく有罪になるだろう。

王位後継者の件も公爵の孫のフランツが継承権を放棄する旨を公言した。祖父の件に連座した形だが、優しい彼は昔から文系に進み違う道を歩みたい希望を抱いている。そんな者からすれば、王位継承権など足かせにしかならないのだろう。


それに比例するようにあちこちでカイ王子の存在感が高まり、侍従長である私も秒刻みのスケジュールをこなす。


そして、月日が経ち周りも落ち着いたころ。父から本家への呼び出しが入る。


カイ王子も“たまの帰省だから実家でゆっくりしてこい”とおっしゃったが。王子は目を離せばすぐにフラフラしだす。だから、1日だけという約束で帰れば。父から意外過ぎる話を持ちかけられた。





「結婚……ですか?」

「おまえももう27だ。遅すぎることもないだろう」


父が持ってきた縁談は、ハプスブルグ帝国時代から続く名門子爵家令嬢との婚約だった。


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