恋色カフェ SS集



思わず驚きが口に出てしまった。

それぐらい信じられない光景が、俺の目の前にあったからだ。


「高宮、さん……?」

半信半疑で名前を呼んでみる。間違っていたら、それはその時だ。

ベーグルに齧りつこうとしていた彼女は、俺の声にこちらを向いて――瞠目した。


「やっぱり! 高宮 彗さんだよね?」

こんなこと、あるのか……?

もしもこの世に神様がいるのなら、不甲斐ない俺にチャンスをくれたということなんだろうか。


「……森谷、店長……」

彼女も信じられない、といった顔をしている。
それもそうだ。俺だってまだ信じられない。


彼女に連絡することを躊躇していたのは、この三年の間、心の中にあった感情が本物なのか、それともただの幻影なのか、正直判断がつかなかったからでもあった。

だが――。


「あの。本当に、私でいいんですか……?」

「いいも何も。高宮さんに来てほしいから言ってるんだよ」

「……是非、働かせて下さい。よろしくお願いします」

答えは、あっさり見つかった。

真っ直ぐな彼女の瞳を見つめていたら、どうしようもないぐらいの愛おしさが込み上げてきた。


幻影なんかじゃない。それがわかれば、あとは。


“絶対に、手に入れる”


自分でも呆れる程の欲望に、彼女の後ろ姿を見送りながら、俺は自嘲の笑みを漏らした。


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