強引上司のターゲット
会社帰りの歩道で反対側の歩道を見ながら泣くあたしは、なんて滑稽なんだろう。
そう思ったって止まってくれない涙に、せめて彼には気付かれないようにと下を向いて歩き出した。


グレーの地面とお気に入りのヒールが一定のリズムで進む。


すると


視界の中に男性の足元が入った。
アイロンでキチンと線の入ったスーツにピカピカの黒い革靴。
無意識に避けようと左にずれた時、急に身体が前に進まなくなった。

一瞬わけが分からなかったけど、足が動くことからして肩を掴まれている、らしい。


「…え」


驚いて顔を上げると、目の前にいるのはなんと、課長…だった。


「なんて顔してんだよ…」


そんな事を言う課長自身もすごい顔。
眉間に皺を寄せて眉を垂らす、本当に心配そうな顔。

急な事に驚いて、涙でぐちゃぐちゃのまま顔を上げてしまっていたことに気が付いても、もう遅い。

あぁ〜もぅと、心の中で運の悪さを残念がっても「何があった?」と、課長の言葉は尋問のように続く。
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