ロールキャベツ


「そうだ、これプレゼント」

鞄の中から紘がスッと出して机に置いたのは、小さい箱と紘が働いている美容室の紙袋。

「開けていい?」

了解を取って箱の方に手を伸ばす。


プチプチのビニールと、包装紙に頑丈に包まれていたのは、デザインが凝っているガラスコップ。

これならより一層おいしくビールを味わえそう…
そう私が思うことを、紘が予測して買ったのだろうか。


もうひとつの紙袋には、ミストのようなものと、それのミニサイズのものが入っていた。
これは?と紘に説明を求める。



「うちで作ってる商品なんだけど、こっちはヘアコロン。すげーいい匂いだよ」

そう言われて、大きいほうのミストの蓋を外して鼻に近づける。

…この匂い、好きだな。

グリーンフローラルの香りがする。
しつこくないのに、ちゃんと存在感のある香り。

甘い匂いが昔から苦手な私にとって、最も気持ちを高めてくれる匂いがした。


「それでこの小さいのは、洗い流さなくていいトリートメント」

「じゃあどこでも付けられるね」

「そう。朋香忙しいじゃん?便利かなと思って」

「ありがとう」


私はホテルのフロント、つまり顔として働いているわけだから、身形を飾ってくれるものを貰えるのは本当にうれしい。

髪をまとめているからといって、前髪はパサつくし、崩れてくる。
そんなときにササッと直せたら、いいなって思っていたんだよね。



「本当にありがとう」

「どういたしまして。ケーキうまいね」

ケーキを口に運びながら、紘が笑う。

こんな風に祝ってくれることが、心から嬉しかった。



私には、家族に祝ってもらうことができない。
いつかはできるかもしれない、だけど今は確実に無理。


なんで帰りが遅いの、とふくれることも
ケーキ忘れたの、と怒ることも
今日何の日か知ってる?と問い質すことも


あの人に対して、私はできない。


誰にも言ったりしないけど、やっぱり寂しい。
寂しくないつもりでいるけど、寂しい。


そんな心細さを、紘が埋めてくれた気がして、嬉しかった。


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