私と上司の秘密
「凛は、本当に俺のこの手が好きなんだな。」

彼は、唇の片方の口角を上げ、意地悪な少年にも思える不敵な笑みを浮かべている。


それとも、何かを思案しているのかも知れない…。


『確かに彼の言う通り、私は、彼の〈この手〉が、好きだ。』


「課長だって、私の脚が好きなくせに…。」

私も彼の意地悪にも思える言葉に、負けじと反論するように、嫌みっぽく言葉を返してみた。


「そうだな。
好きだな、この脚が…。
けど、二人の時に課長って呼ぶ、凛は、好きじゃないな。
プライベートの時は、圭介って呼べって、毎回、言ってるだろう。」

彼は少し不機嫌な様子で私に話す。


私は、彼の名前を呼ぶのは、なかなか馴れない。


普段から使い慣れていないからかも知れない…。


「け、けい・す・け?」

と小声でためらいながら、言葉を詰まらせて、彼の名前を呼んだ。


「はい、よく出来ました。」

少し前の黒い笑みとは違い、柔らかく、目尻の
下がったような表情で、まるで、子供を誉めるかのように、私の頭を優しく撫でた。


今日も、お互いの存在を確認するように、お互いのものを愛おしみ合い、そして私は、この彼の手に癒される。
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