異次元バスでGO!
「墓石の欠片だ。バスに乗るんだろ」
            おじさんは片目をすぼめてから、民家の庭先にぶら下がっているゴーヤを見あげた。                持っていたステッキで、さもあたり前のようにゴーヤをもぎ、袖で磨いてから口に運ぶ。               不味かったのか青ざめ、くるりとこちらに背をむけた。
           「……ではね、あとでね」
 吐きたいのか、口元をおおうように丸まって去っていく卵おじさんを、佑香はぽかんとして見送った。
            全身に満ちていた感情の爆発が、下火になってしまっている。家を飛びだし、泣きながら走ってきたことが恥ずかしくなってきた。                 帰ろっかな。あんなことで怒ったのバカみたい、もういいや、めんどいし。
 太陽と反対に歩きだす。
 濃い影が長くアスファルトにのびている。             竿竹屋さんの、庶民くさい声がどこからか届く。安っぽく響く犬の遠吠え、ダイエットしたいのにお腹を鳴らせるカレーの匂い。
            やっぱ、やだ。みんなやだ。絶対帰らない。
            佑香(ゆうか)は、ぐぃっと体のむきを変えた。
            鉄塔オブジェを睨み、肩を怒らせる。
                       ここじゃない場所なら、どこでもいい。みんなみんな捨ててやる!
                       つかんだままでいた薄い石を、無意識にしっかりと握りしめた。
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