ぬくもりを感じて
いったん喜んだ凛花だったが、すぐに坂野の家を出る理由が必要だと考えてしまった。

すると遠藤が、

「これだけの事件があったあとにあの部屋に住めと言う方が酷だろうが。
十分理由になると思うよ。

けど、なんで君の兄貴が満原兄のマンションを指定してきたのかの方が俺は気になるけどね。」


「あ・・・ほんとだ。
私、智樹さんも会うまでお友達だって知らなかったのに、どうして兄さんは智樹さんのお兄さんのマンションなんて・・・」


「理由は僕もまだ教えてもらえないでいるんだ。
でも、瑞歩と兄・・・そして凛花のご両親がつながっているのはわかる。」


「もしかして両親が亡くなったのも、智樹さんのお兄さんならご存知なのかも?
だから兄がこんなこと・・・。ああ、わからないことばかり!」


「とにかく、まず坂野さん家から出ることだ。」



その後、凛花の気持ちが落ち着いた頃を見計らって警察で簡単な取り調べを受け、被害届も出した。

実際のところ部屋をひっかきまわされた以外は何をとられたということもなく、取られたものも何もなかった。


そして、事件を理由に凛花は坂野の部屋を出ていくことを坂野に言った。


「ごめんなさい・・・残念だけど、身の安全という点については何もいえないわ。
せっかくルームメイトができたと思ってうれしかったのに。

それに・・・あなたのいうとおり、お兄さんの婚約者っていうのは嘘です。

私はお兄さんに憧れていたっていうべきね。

ある研究所でアルバイトの助手を募集していて、そこで出会ったの。
白衣を着て、てきぱきと仕事をこなしていく瑞歩さんがカッコよかったわ。
バイトに参加してた女の子はみんな仕事よりも瑞歩さんばかりを見てた。」


「そのバイトって何をやっていたんですか?」


「わからない。ただ、スイッチを作る工場だって説明はあったわ。」


「スイッチ?」


謎が深まるばかりだったが、坂野の同僚やとくにマネージャーの唐崎が書類を探しているのは間違いなかった。

坂野の話では、匿名でイベント会社に連絡があって、凛花が持っているという書類を廃棄処分しなければ、凛花の身が危険に晒されるということだった。

それも不思議な話・・・誰もどんな何というタイトルかも知らない書類を見つけて廃棄処分にするなど、話がもう無茶苦茶である。


わけがわからないまま、凛花はいちばん信じられる兄の指示どおりに智樹の兄の大樹のところへ智樹に連れられて出向いた。


「やぁ、よくきたね。
お兄さんにはうちの仕事をしてもらってるんだ。」


「えっ?だって・・・兄は両親の死んだ原因を調べてるんじゃ・・・?」


「亡くなったのは悪質なドライバーのせいだと検証されているだろ。
お兄さんはうちの会社の化学研究員としてアメリカの研究所へ行ってもらっている。」


「なんか・・・お話がよくわかりません。」


「そうだね。誰もきちんと説明をしていないからだろう。
本当にすまない。
僕が早く説明に伺うべきだったね。

時期的にも申し訳ないことをしたと思ってるよ。
君が日本にきて、たったひとりの身内であるお兄さんがいなくなってたら心配して当然だ。

でも智樹が君を保護してくれたときいて、こちらとしては安心したんだけどね。
それでも説明が遅れてしまったこと・・・本当に申し訳ない。」


「いえ・・・いいんです。」

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