世界で一番好きな人
第3章 幸せになるために

決意

ある休み、私は、掛川さんと薫ちゃんと共に、少し遠出をしていた。
掛川さんの車に乗せてもらったのは、初めてだ。

掛川さんは、車の中でもやっぱりお洒落なジャズをかけた。
私は、後部座席で薫ちゃんと一緒に歌う。
掛川さんが、たまにハモったりする。

幸せって、こういう瞬間のことを言うんじゃないかな、と思う。


私はいつだって、幸せになりたいと思っていた。
「幸せ」と感じられる瞬間は、ずっと先にあるものなんだと。
それは、安定に裏打ちされたものなんだと、ずっと思ってた。

だけど、今ならそれは違うと言える。

未来なんて、見えなくても。
約束なんて、何もなくても。

こんな瞬間が、幸せなんだって。
私の求めていた形ではないかもしれない。
だけど、これこそが幸せの本当の姿なんだと。

完璧な人なんていない。
だれだって、大なり小なり、心に悲しい記憶を抱えている。
それでも、だからって、幸せになれないわけじゃない。

そうだよね、掛川さん―――


掛川さんが、私に教えてくれた。
本当に大好きな人といるときの、心が震えるような幸せを。
そして、生きていることの喜びを、教えてくれたのは、あなたなんだよ。


隣で、無邪気にはしゃぐ薫ちゃん。
私に、そんな顔を見せてくれるようになった薫ちゃんが、本当に愛おしい。

私は、子どもを産んだことはない。
だけど、薫ちゃんはまるで―――

自分でお腹を痛めて産んだ、我が子みたいに思えるんだ。



「もうすぐ着くよ。」



掛川さんが、そんな私たちにとびきりの笑顔を向けた。
私の心は、満月の日の海みたいに、静かに満たされた。
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