たとえ誰かを傷つけても
たとえ誰かを傷つけても

始まり

「ねえねえ、八神君ーあの子いいと思わない?」

と柊真がいった。

「あのこって?」

「りーちゃん!」

 その名前を聞いたとたん、俺はドキッとした。りーちゃん・・・同じクラスの中谷りかのことだ。

「どう思う?」

柊真がこっちに視線を移す。俺は、胸の動揺を悟られないように平静を装おった。

「どうって・・・うん、いいんじゃない? なかなか可愛いし。」

「だろ? だろ?」

柊真はうれしそうに飲みかけのジュースをゆらしながら俺にすり寄ってきた。

「それだけじゃないよ。あんまりめだたねぇんだけどさーなんか雰囲気いいよなー優しいし。」

「ああ(知ってるよ)」

「この前もさー体育で内山がこけたときも真っ先に保健室に連れて行ってたろ? 気が利くんだよな」

「・・・(知ってるっつーの!)」

「今日も、自販機前でこのジュース買おうとしたら、小銭なくってさー困ってたら、すぐに貸してくれたし」

「・・・(それは知らない・・・もしかして、こいつりーちゃんの手に触りやがった・・・?)」

「でさ、八神君!」

柊真はにやっと笑い俺の顔をのぞき込んだ。俺はいやな予感がして身をすくめた。


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