あまのじゃくな彼女【完】


予定時間の30分前には店に着いた。かなり余裕がある。
千葉さんが連絡しておくと言ってたけど、私からも連絡するのが筋だろう。出来れば会食が始まる前に、あらかじめ打ち合わせがしたい所だ。

表に立ったまま山下さんへのメールをうった。




「君、コーエンの人間かね」

小肥りの男性が不機嫌そうな面持ちで話しかけてきた。

白髪混じりの薄い髪をバックになでつけ、見た所50代半ばといった所だろうか。まん丸の顔は光輝き額には汗が滲んでいる。服はいかにもなブランドロゴが誇張され、大ぶりの指輪は太い指に埋もれそうになっている。全身いたるところのラインに“でっぷり”という表現がしっくりくる。



「私、コーエン飲料企画課の吉村と申します。本日はお時間いただき、誠にありがとうございます。申し訳ありません、担当の山下が到着が遅れているようでして」

と言いつつも、予定まで30分程あるはず。しかし先方の手前、そんなこと言えそうにもない。



「なんだあの男、相変わらず失礼な奴だな」

「申し訳ございません、間もなく着く頃かと・・・」


ここで帰られてはもともこうもない。とりあえず山下さんが来るまで繋がなければ。



「まぁいい先に始めておけばよかろう。君がいるんだから」

「は、はぁ。しかし」

「僕だって暇じゃあないんだ。早く案内しないか」


かしこまりました、しか言わせてくれそうもない。この坂上という男、山下さんが言っていた通り一癖も二癖もありそうな男だ。


山下さんにはさっき連絡をいれておいたし、じき到着するだろう。

芽衣子はひとまず、目の前のでっぷりおじさんの対応に集中することにした。

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