霧煙る山
数時間後に、異変。

最初に蛮が気づき、隣に寝ていた僕を起こした。

「足音がする、さっきから。キツネじゃなさそうだ」

眠ってはいなかったのか、全員が上半身を起こして耳を澄ます。

重くゆっくりとした足音。

じゃり、じゃり。

時折混ざる湿気のこもった鼻息。

みな息を潜め、連想しているようだ。

ヒグマ、か。

テントの周りをぐるぐると足音が回る。

どうやら、一頭。

激しい獣臭が鼻をつく。

誰からともなく、皆テントの中央に集まって、身を固める。

そのうち、熊がテントの布に鼻を押し付けては激しく臭いを嗅ぐ、という行動を始める。

嗅いではテントの周りを巡り、また嗅ぐ。

皆、恐怖で声を殺し震えながら、身を寄せて動かない。

しばらくして、全員が身体を大きく振るわせた。

熊がどしん、どしんとテントに体当たりを始めたのだ。

テントの布が内側に大きくせり出して、クマの形を作る。

とにかくそれに触れないように身を縮める。

本気を出されでもしたら熊にとってはテントなど紙切れだ。

悲鳴を上げそうなのを堪えながら、テントの振動に耐える。

熊は5分ほど追突を繰り返した後、またしばらく円を描いて歩いた。

また追突、歩く。

絵里奈は泣いている。

僕も泣きそうだった。

明け方までそれが続いた後、静かになった。

全員が少し眠る。

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