イージーラブじゃ愛せない


「……時間遅いよ。帰るなら車で送ってくから」


引き止めるのをあきらめた俺は、クシャリと髪をかき上げてからベッドを下りる。けれど、溜息を吐き出しながらクローゼットでテキトーに服を漁ってても、胡桃からの返事は一向に返ってこない。

シカト?どんだけ不機嫌なんスか。

参ったなあと思いながら振り向くと、着替え終わった胡桃がマフラーと鞄を慌てるように乱暴に掴んで玄関に向かう所だった。


「胡桃!送ってくってば!」


叫んだ俺の声をガン無視して胡桃は玄関のドアを開けさっさかと出て行く。ちゃんと靴も履かずパンプスの踵を踏んづけた状態で。まるで一刻も早くここから逃げ出したいみたいに。

……なんで?

慌てて追いかけようとシャツのボタンも留めずに駆け出した俺は、閉じられた玄関のドアの前まで行ってその足を止めた。


「……もー知らね」


なんか今日はもう追っかけても無駄な気がする。そもそも胡桃がなんで怒ってるのか分かんないし。


あきらめた俺は握りしめていた車の鍵をカシャリとテーブルに投げ置いて、そのままベッドへと寝転がった。

シーツにはまだ胡桃の香りとぬくもりが残っている。

たったさっきまで抱きしめていた筈のぬくもりが、今は忽然と消えてしまった。なんだかもう意味が分かんないよ。


「胡桃のあほー……」


見慣れた天井をうつろに眺めながらやるせない想いを吐き出した。


俺、胡桃の事こんなに大好きなのになあ。なーんで上手くいかないんだろ。


ひとりぼっちになった部屋は寒さが増した気がして、心まで虚しく冷やしていく。今日の胡桃も未来のふたりもなんも分かんない俺は、いっぱいの不安を抱えながら虚しくひとりで眠るしかなかった。





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