イージーラブじゃ愛せない


こういうの自業自得って言うんだろうか。物件紹介から引越しの手伝いまでしてくれた成瀬先輩の目的はそこにあったようだ。

以前はずいぶん蔑まれた気がするんだけど。心境の変化か何なのか、今はやたらとそれを要求される。

けど、悪いけれど私はその要求をずっと突っぱね続けていた。だって。


「考え改めたんです。私はよくても友達が泣く」

「それって高倉?」


即座に聞き返されて、頭には男友達の姿が咄嗟に浮かんだ。

『……俺が悪かったなら謝るから。だから……もう、そーいう事やめてよ……本当に』

苦しそうに懇願した、ジョージの姿が。


「違います。りんが、西島りんかが泣いちゃうの。私のこと心配して」

「西島……ああ、販売の小さいのか。……ふーん」

「私、あの子だけは泣かせたくないから。だから身体でお礼ってのは諦めて下さい」


キッパリとそう言ってから、私は成瀬先輩の部屋の玄関を出ると強くドアを閉めた。

パタパタとサンダルを鳴らして、すぐ隣の自分の部屋に戻る。

住み始めたばかりの部屋はどこもかしこも綺麗過ぎて、まだ自分の住処だという実感が湧かない。


会社までバスで20分のこのマンションは、ちょっと奥まった住宅街にあるせいか44000円と云う破格の家賃にも関わらず2Kの広さがある。

最初は広いに超したことは無いと喜んだけれど、やっぱりひとりでこの部屋数はちょっと多すぎた。

夜になって部屋にひとりぼっちでいると、つい空間を持て余して虚しくなってしまう。


うっかり成瀬先輩の要求に首を縦に振ってしまわないように、なかなか忍耐のいる毎日だ。
 
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